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とあるジャニーズJr.とヤラカシの話

とあるジャニーズJr.ヤラカシの話

初めに言っておくけど、この話はフィクションだ。

私はあるジャニーズJr.ヤラカシをしている。ジャニヲタは、いわゆるストーカーをしているファンのことをヤラカシと呼ぶ。(ジャニヲタが決めている)正規のの範囲を超えて出待ちをしたり、追っかけ行為をするのがヤラカシ。きちんとルールを守る人はオリキと呼ばれるが、それはこの話には関係がない。

ヤラカシは重労働で、1日に何時間も最寄り駅でアイドルがやってくるのを待ったり、あるいは1日かけて都内スタジオを延々まわり、リハーサルをやっていないか探し当てたり、またアイドルの通う学校に行ったりもする。そして話しかける。話しかける動機は単純で、喋りたいから。好きだから。それ以上も、それ以下もない。

ヤラカシの中にはアイドルに冷たくされたり、ひどい場合には暴行を受けることも多い。周りでそのようなたくさんの話を聞いてきた。でも、わたしの好きなアイドルは優しかった。驕りだとも思うが、自他共に認めるすごく優しい応対をされている。純粋に会いたいという気持ち暴走してストーカーに走ってしまっているのを、かわいそうだと思ったのか、あるいは「そういうこともある」と気に留めていなかったのか、ストーカー行為については見て見ぬ振りという形で許容してくれた。

いつもあからさまに後をつけたり、出待ちをしてはいけないところで出待ちをしていたのに。彼のプライベートに何度も何度も介入していたが、すべて「偶然」という体にしていた。

わたしはいつも応援しているという旨と、つきまとってごめんなさいという旨の手紙を書き、しばしば手紙お金を入れて渡した。ストーカー行為についておおごとにされないようにするためのわたしの精一杯の予防線がその1万円の束で、ときには月に数十万円にも達した。

彼はお金について触れてくることはなかった。わたしも触れることはなかった。お金はどうやら、洋服を買ったり、またはレッスンの交通費カラオケ代として平凡に消費されているらしかった。わたしアイドルは、仕事量によって頻度が違ったものの、定期的な仕事がある期間は毎日10分以上も話をした。最後にはまた明日ねといって別れた。明日は何時に来るの? スタッフさんいるかな?待ってても大丈夫? 概ねそのような言葉が、別れの挨拶になった。

話す内容は他愛もないことで、彼の家族ペット学校仕事仕事仲間のこと、わたし個人的な近況、天気や風景のことだった。まだ発表されていない仕事をちらりと教えてくれることや、ストーカーわたしに、応援してくれて、出待ちをしてくれてありがとうと(お世辞でも)言ってくれることさえあった。

莫大な時間と、お金を使って、そしてストーカー規制法に完全に触れてまでやることではないだろうと客観的に見て思う。でも、わたしはその他愛もない時間と会話が何よりも大切だった。わたし風俗をやり、追っかけに費やされる時間によってまともな仕事ができないことや、封筒に入れる一万円札が足りないことをカバーした。

しかし、そんな日々も長くは続かなかった。わたしは彼のストーカーをしていることがたまらなく申し訳なくなった。わたし犯罪者で、悪人だった。このことが彼のファンに知れれば炎上することは間違いなかった。この話にも、いくつかのフェイクが含まれている。

ストーカーをやめたい、と思い、本人に思い切って告げた。

「あのね、聞いてもらうだけでいいから話したいことがあるんだけど」

「なになに?」

彼はとある山手線駅構内で立ち止まってくれた。

ファンやめたいなと思って。こういうの」

「え?どうしたの!?

わたし、○○くんのこと好きすぎて気持ち悪いじゃん」

「はぁ?そんなことないよ」

突然降りかかったわたしというストーカーの進退問題に、彼は動揺している様子だった。「あぁ!帰るの邪魔しちゃってごめんね」「全然大丈夫だよ?」彼は改札の前から動かなかった。

「こういうの負担でしょ?それで悩んでて。わたし○○くんのこと普通に好きなの。……付き合ってほしいとかそういう好きなの」

全然負担じゃないけど……うん。そうなんだ」

ちなみに、彼とわたしは同い年だった。

「でもさぁ、それは無理じゃん。だからどうしたらいいかって悩んじゃうの、それで離れたいの」

「うーん……」

わたしなんて○○くんの力になれないじゃん!」

「なんで!?俺はすげー力になってるよ。来てくれるだけでも手紙くれるだけでもいいよ」

「……そうなの?」

「うん」

「来ていいって言うなら……スタジオも行くし、こうやって待ってるけど……」

「俺はうれしいよ」

「……ごめんね……わたしの中で○○くんを好きな気持ちガチ恋なのが、申し訳ないの。付き合えないじゃん」

「……それは難しいかもしれない」

「どうしたらいいと思う?……」

「…なんかよく言うじゃん!世界には同じ顔の人が3人いるって。そういう人、探せば!?

わたし爆笑した。

「……お金のこととかどう思ってたの?」

「え?」

わたし何の仕事してるように見えるの?」

「えっ、何の仕事って……わかんないわかんない!でも不思議な人だなって思ってたよ」

不思議な人……なんで?」

「毎回来てくれるし……お金もくれるし。でも大丈夫かなって」

大丈夫!?大丈夫じゃないよ……まぁ……水商売から

「それはさ……身体大切にしてほしいです」

彼はしばらく悩んだあとわたしにそう言った。

応援される側も、重くて大変だよね」

「いや?俺はそんなこと思ったの一度もないよ」

「えぇ、そうなの」

「うん。ふつーに嬉しい」

ストーカーは結果としてやめることができなかった。でも、ひとつ成果があったのはわたし自担に振られたということだった。振られたのに、ストーカーはやめなくていいと言われたので、本当に不思議なのはわたしじゃなく、お前だろ、とわたしは思った。

15分くらい話して、「気をつけてね。体調も」と言われて改札前で別れた。わたしはこれからも、彼が「来ても平気」とはっきり言ったことに甘えてスタッフの目を盗んでコソコソし、アイドルを待ち続けることだろう。

自担の次の仕事を2つ教えてもらい、始まるまで待ってて、と言われたので、わたしはそれまでおとなしくしている。

わたしはその日以降、自担ドッペルゲンガーを探しているけど見つかる気配はない。果たして見つかるんだろうか? 付き合えなくても話せてるから全然いいじゃんと友達には言われた。確かに。罪悪なるガチ恋を告白できただけで、わたしの胸中はずいぶんと軽くなった。

ヤラカシはやめない。

もう一度付け足すけれど、この話はフィクションである